

内田報告は、大きく二つの部分に分かれる。前半は、言語研究における周辺アプローチに関する報告であり、後半は翻訳文化研究に関する報告である。言語研究における周辺アプローチ報告では、「官話と方言」や「一般言語学と個別言語学」など、「個別」と「一般」の、あるいは「特殊」と「普遍」のインターラクションといった文脈から、「周辺と中心」を再構成していくことの重要性が指摘された。翻訳文化研究については、説話の伝播と意味解釈のずれへの着目が指摘された。とくにイソップ説話を入手した日本人にとって、その寓話内容がどのように解釈されたのかが興味深い。
吾妻重二 中国、朝鮮、ヴェトナム、日本における民間教育施設=書院の研究によって、東アジアにおける伝統教養の形成と展開の解明を目的とする共同研究を提議した。共同研究の目的、内容は以下の通り。この諸地域の民間教育施設は近世、儒教の影響を受けつつ発展し、しかも各地域の諸条件によって多様な展開を見せている。これまでの書院研究は各地域の個別研究に止まっており、東アジアを横断する広角的視野がなかった。そこで東アジア各地域の研究者が、思想、宗教、歴史、文学、言語などの諸分野から伝統教養のありかたを考察し、東アジアの文化的基盤や今なお伝承される知的伝統の共通性と差異性を明らかにする。とくに近世時期を中心に、書院の施設、運営方法、講学内容、カリキュラム、教材、受容層の広がり、国家教学との関係、思想的特色などを文化交渉の視点に基づき学際的に究明する。また国内に関して、大阪の漢学塾である泊園書院が所蔵する貴重書を調査し、データベース化する。
原田正俊 まず始めに日本仏教史研究の成果と現況について概括し、次に文化交渉学のテーマとして仏教史を扱うにあたっての研究課題が提起された。
日本仏教史は仏教自体が大陸から伝来したという特性のもと研究史上においても人と情報の往来が常に問題とされてきた。しかし古代・中世・鎌倉新仏教いずれも関心の中心は日本仏教の内在的な発展の解明にあり、近年大陸仏教の影響を重視する研究が現れ始めたとはいえ東アジアの動向と日本社会の連動との解明は遅れている。
このような状況により、東アジア諸地域の国家共同体ごとに仏教儀礼・仏事法会の果たした役割を解明・比較することは、不可欠であるにもかかわらず従来充分に研究が進んではいない。そこで文化交渉学における研究テーマとして提起するのは「東アジアにおける仏教儀礼の展開」である。
本学のアジア文化交流研究センターでは、既に儒教儀礼研究のプロジェクトが鋭意進められている。これと仏教儀礼研究を合わせ、さらには道教や神道をも含め、東アジアにおける思想・宗教およびその儀礼の全体像をより明確にすること、これが本テーマの最終目標となる。
本報告は、「民主」「自由」など近代社会のキーコンセプトを表す漢字語の多くが日本・中国で造語され、その後漢字文化圏の各国・地域で共有されたことに着目する。それらの同形語がどのように発生したのか、交流・伝播・受容並びに変容が各国・地域でどのように展開されたかを明らかにするには、個別に「語」の現状を記述するだけでは不十分である。日・中、さらには韓国の各言語における関係性を重視しつつ、語彙史上の「語」の発生とアジア西洋化における新概念の獲得・変容という視点からの検討が必要となる。このために、Wikiページを用いて中国・香港・韓国等の研究者と力を合わせた研究が目下進行中である。このような作業はアジアの近代化プロセスを検証する上で不可欠の基盤研究となると同時に、今後の異文化研究、及びそれに伴う概念の移動、外来新概念の語彙化のあり方等についても有益な示唆を与えるに違いない。
野間晴雄 東アジア(中国、朝鮮、台湾、ベトナム)を訪れた近隣の異邦人(隣接諸国)と遠方の異邦人(西洋人など)が残した著作などから東アジアをみるまなざしの比較、さらにはこうした訪問者が、博物学的関心から実践・産業的関心への展開するさまを、データベース形成を通じて明らかにする。
また近代以降、アジアで収集された稀種・有用植物が植物園での分類・保管システムを分析することにより、本草学や民俗分類との違い、さらには収集者のまなざしを明らかにすることや、中国を中心にして外来栽培植物(サツマイモ、トウモロコシなど)の語彙や普及過程、日本や琉球の菊やユリをめぐるまなざし、伝統産業の国際化などに共同研究の可能性を想定している。
次年度以降予定されるフィールド調査は、ヴェトナムの都市などに設定し、大学院生を中心とする若手研究者に、統一的テーマのもと学際的手法で実践してもらい、モノグラフ出版を最終目的とする。